高聾祭ディスプレイ:情報デザイン科の授業風景

今年度の高聾祭ディスプレイは、「Conceptual Art&Augmented Reality」をテーマに制作を進めました。
具体的には、アメリカのコンセプチュアル・アーティストであり、現代美術の分野で重要な存在であるジョセフ・コスースの作品群の表現手法を引用しつつ、昨年度から授業に教材として組み込んでいるAdobeAeroによる拡張現実(Augmented Reality, AR)との関連を探っていく活動が中心となりました。
ジョセフ・コスースの代表作である「One and Three Chairs(椅子とその表現)」においては、実際の椅子、椅子の写真、そして椅子の定義を示すテキストが同時に示されます。これらの間には、それぞれが異なる表現方法ではあるけれども、「chairs」という要素自体は共通して根底に流れています。結局、全てのものの上位概念であるobjectsは、人間の認識の枠組みの中においてのみ存在しうる要素としては共通しているわけです。
そして、ARは、コスースが具体的なものの並列により、そのオブジェクト間の関係性を暗喩しようとしたのに対し、極めて明示的に概念と表現の関係性を提示します。裏を返せば、コスースが行おうとしていたことは、現代の拡張現実そのものであるとも言えるかもしれません。アナログ表現によるメタファーを駆使し、コンピューターによる表現が難しかった時代において、相の異なるもの同士の並列という、一見単純ではある手法によって、人間とものの間の関係性、認識の有り様といった部分に深くアプローチしようとしていたのではないでしょうか。
今回のディスプレイにおいては、ジョセフ・コスースの作品における理念を借用し、改めてその表現の価値を「もの・画像・言語」という3つの要素の並列という表現手法により確認することを試みました。そして、言語表現においては、文字ではなく、意味構成上、文法的な要素が極めて重要であることを明示する必要があることから、数年来、専攻科情報デザイン科で取り組んでいる「江副式日本語教授法」により重箱上に節を階層化した図を併置することにしました。
加えて、昨年度から取り組んでいるARによる手法も、一部の作品で組み込むことを試みています。「もの・画像・言語」=「拡張現実」という図式が成り立つのかどうか、極めて実験的な取り組みではありますが、あえてこのディスプレイ制作の枠組みの中で挑戦してみることにいたしました。
この取組が結果として作品として成立し得たかどうかは、対象となる鑑賞者の手に委ねられると思いますが、専攻科情報デザイン科の各科目における横断的で総合的な学習として、表現と言語の関係を深く考察する機会になったことは間違いないものと思います。